唯「楽しい、だと思うよ」

唯「楽しい、だと思うよ」

0001以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
2010/12/05(日) 12:01:03.04ID:w7wj2eg00
「あ……和ちゃん、おはよう」

彼女はいつも屈託の無い笑顔を私に見せる。
十数年間一緒に登校して来た、そして、去年から別々の高校に通う彼女は、相変わらず、明るく笑う。

「ええ、おはよう。朝に会うのは久しぶり、かしらね」

朝に、とは言ってみたものの、それ以外のときは会っているのかと聞かれると、そうでもない。
ああ、じゃあ、今のは嫌味ったらしく聞こえやしないだろうか。
そんな私の心配を他所に、相変わらず、彼女は明るく笑う。

「久しぶりだねえ。あのねえ、軽音楽部に後輩が入ってきたんだあ」

少し間延びした口調で話す彼女は、去年から、多分何一つ変わっていない。
だから、きっと、変わったのは、私のほう。
彼女の姿はいまでもはっきりと私の目に映っているのに、私の姿は、薄い霧の中にある。
多分、彼女が見ているのは、去年の私の残像だろう。

「そうなんだ、ごめんね、急がないと電車が出ちゃうのよ。また、メールしてね」

あ、そっか、ごめんね、と、唯は寝ぐせのついた髪の毛を揺らして、頭を下げた。
別に、謝らなくたっていいのに。
私、和ちゃんと一緒の高校に行きたいなあ、なんて、唯が言ったのは、
そういえば、もう一年と半年ほど前の事になる。
分厚い参考書が詰まった鞄を持って、家から駅、駅から学校までを往復するばかりの毎日で、
いつのまにか、時間感覚は狂ってしまっていたらしい。

もう少し、最近のことだと思っていた。

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