【ゆるゆりSS】きもちに寄り添う数秒間
【ゆるゆりSS】きもちに寄り添う数秒間
下校時刻になっても、まだ昼間のように陽が高い夏の日。うかつに外に出ることは危険と叫ばれるほどの気温になる昼間に比べ、夕方はほんのちょっぴりマシになるが、それでもじっとしているだけで汗が噴き出してくるような暑さの中。
ばらばらと校舎から出てきた七森中の生徒たちは、なるべく日陰になるような道を探しながら帰宅の途についている。高温多湿の過酷な環境の中にあって、それでも生徒たちの表情が一様にどこか明るいのは、期末テストも終わり、明日の終業式でいよいよ夏休みに突入するという解放感のせいだろうか。
そんな中、ある少女たちだけは、晴れやかな心とは程遠いトゲトゲした気持ちを互いにぶつけあって、大げんかを繰り広げていた。
「だからあれほど言ったんじゃないの!!」
「向日葵には関係ないじゃん!!」
周囲の視線など気にも留めずに大声で反発しあいながら家路についている、向日葵と櫻子。いつものことといえばいつものことなのだが、今回がいつもよりもだいぶ激しめな雰囲気であったことは、周囲の生徒たちにも伝わっていたかもしれない。
きっかけは些細なことだった。しかしその些細なことが積み重なり、別の些細なものまで降り積もってきて、やがて看過できないものとなり、先に向日葵の導火線に火がついて爆発する。その爆発に櫻子が反発し、お互いに一歩も引かずにケンカ状態となる。
「もう知りませんわ! 勝手になさい!」
「あーあー勝手にしますよ! じゃあね!」
家の前までそんな調子でいがみ合い、もうしばらくは顔も見たくないとばかりにふんっと顔をそむけ、二人はそれぞれの家に帰っていった。
古谷家では、家の前の喧騒をききつけ、何事かと驚いた楓がとてとてと玄関まで姉を迎えに行っていた。大室家では、「ただいま」も言わずにバンと扉を開けてリビングに入ってきた櫻子の怒り顔を、花子が気まずそうに見つめている。
「……また、ひま姉とケンカしたし?」
「ふんっ!」
カバンをその辺にほっぽってずんずんと冷蔵庫に行き、冷えた麦茶を飲む。胸にいっぱいになってしまった怒りと暑さへのいら立ちが、冷たいものと一緒におなかの奥底に流れていって少しだけ落ち着き、そしてその空いた部分にもやもやとした嫌な気持ちが渦巻いていくのを、櫻子はなんとなく感じていた。
――また、ケンカしちゃった。
幼い姉のそんな複雑そうな横顔を見て、「どうせ櫻子が悪いんだから、さっさと謝ってきた方がいいし」とでも言おうかと思っていた花子は、じっと言葉を飲み込んだ。
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